「トライボロジー会議2003秋新潟」報告

実行委員長 柳 和久(長岡技術科学大学)



前書き 研究発表会 ベストプレゼンテーション賞 イブニングフォーラム
特別講演会 トライボロジーアカデミー 利き酒会 ビールラベルコンテスト
懇親会 製品・カタログ展示 終わりに 実行委員


前書き

「トライボロジー会議 xxxx秋_」は東京以外を会場に開催することが定着してきた.
2003年度は「新潟」を開催候補地とすることが2年前の理事会で決まり,速やかに実行委員会が組織された. しかし,当初は少人数の有志による暫定組織であったように記憶している.幸いにも南西は福井県から北東は 新潟県までのトライボロジー関係者が集う「日本海トライボロジー研究会」がその暫定組織とオーバーラップしていたため, 実行委員会は実質的に日本海トライボロジー研究会に置き換えられることとなった.
特筆すべき問題もなく会議運営を行うことができた最大の要因は,長い年月をかけて築き上げてきた人的ネットワークに あるように思えてならない.大学,高専関係者は勿論のこと大方の企業会員から実行委員会を名実あるものに仕上げていただいた. 紙面を借りてお礼を申し上げたい.

 本実行委員会が熱望したことは,より多くの会員から会議に参加して(新潟に来て)いただくこと, 田中正人会長が提唱するニューサービスモデルの一端を担うこと,日本トライボロジー学会の発展に寄与する確かな手ごたえが得られる こと等であった.そのため開催地の特色が前面に出るようなイベントが必要であるとの共通認識が得られ,また, 次世代へのトライボロジー技術の伝承策が議論されるに至った.

会場を2003年5月オープン予定の「新潟コンベンションセンター(朱鷺メッセ)」にすることを優先したため, 会議期間は先方の意向で11月11日〜13日となった.通常の学会活動とは異質に映るイベントを数多く盛り込んだため, 産業界や地方自治体及び高校との緻密な打合せ作業が会議直前まで繰り返された.

以下に順を追って会議内容とその舞台裏の一部を紹介させていただく.
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研究発表会(新田勇委員)

 研究発表会は,朱鷺メッセ内の6つの会議室を使用して行われた.セッション総数は61に及び,研究発表総数は277件であった.
シンポジウムセッションとして(1)接触解析に基づく機械要素の長寿命(信頼性)設計(発表数14件), (2)今,トライボロジー教育を考える(発表数12件)が行われ,活発な討論がなされた.
一般の研究発表は,次の17テーマに関連して,59のセッションに分かれ,行われた. (1)表面・接触:4セッション(発表数16件),(2)転がり接触:2セッション(発表数9件),(3)摩擦・摩耗:9セッション(発表数38件), (4)物性:1セッション(発表数4件),(5)摩擦材料:3セッション(発表数13件),(6)表面処理・コーティング:6セッション(発表数25件), (7)固体潤滑:3セッション(発表数12件),(8)境界潤滑:2セッション(発表数7件),(9)流体潤滑:4セッション(18件), (10)特殊環境:1セッション(発表数6件),(11)マイクロトライボロジー:5セッション(発表数22件), (12)磁気記録:3セッション(発表数14件),(13)機械要素:4セッション(発表数16件),(14)潤滑油・グリース:5セッション(発表数21件), (15)試験評価法:1セッション(発表数5件),(16)バイオトライボロジー:3セッション(発表数13件), (17)国プロCO2削減技術:3セッション(発表数12件).
 大きなトラブルもなくスムーズに講演が行われたものと考えている.また,セッションによっては立ち見が見られ, 参加者の関心の高さがうかがわれた.

研究発表会の一場面
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ベストプレゼンテーション賞(金子覚委員)

昨年のトライボロジー会議(仙台)に引き続き,今回の会議でも実施した.
審査のおもな方針は,@発表講演の全てを審査の対象とする, A各講演の審査は座長ならびに実行委員1名(計2名)があたる,B3日間の各日毎に1件を選ぶ(合計3件), C1日目,2日目については懇親会の席上で発表,表彰し,3日目の対象者はトライボロジスト誌上で報告する, D表彰者は実行委員長とし,連名講演では発表者1人に授与する,とした.審査基準は,@内容の新規性,A信頼性, B完成度(目的や結論の明解さ),C発表の態度(声の大きさや目線),DOHPまたはPPTの出来映え, E質問に対する回答の明解さの6項目とした.
評価は,6項目の合計点(各項目10点満点,計60点満点)に"プレゼンテーション賞に 推薦する度合い(10点満点)"を掛け合わせた点数(600点満点)で行った.審査委員(実行委員)は講演会終了後,事務局で審議し, 最高点者をその日の受賞者として選出した.

審査の結果以下の3氏を表彰した.

第1日: 福井治世氏「DLCのトライボロジーと切削工具への応用」
第2日: 松田健次氏「真空環境下におけるIn被膜材の摺動特性に及ぼす酸化の影響」
第3日: 山田豊氏「すべり軸受用PEEK樹脂のトライボロジー性能」
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イブニングフォーラム(金子覚委員)

今回のイブニングフォーラムでは地元新潟の雪,酒を題材として"「夏にすべる,冬にすべる」,「人のすべり,自然界のすべり」にまつわるお話" というタイトルで実施した.
話題提供者には本間侃氏(ホンマ科学(株)),和泉薫氏(新潟大学),東信彦氏(長岡技術科学大学), 柳和久氏(長岡技術科学大学,本会議実行委員長)の4名をお願いした.

本間氏は"夏でも滑りたい,練習したい"というスキー選手, ファンの要望に応えるため,ゴム車輪(ベクトル作動タイヤ)スキーを開発し,半球の凸部を有するプラスチック製マットとの組み合わせにより タイヤのスリップ防止と摩耗低減を図った話をされた.
和泉氏は大規模雪崩の流動性のメカニズムを理論的に説明し, その後会場内で短いシュート(樋)を使った模擬物質(細かい発泡スチロール)の流動実験デモンストレーションを行った.
東氏は南極地域観測(ドームふじ越冬隊長)で得られた研究資料に基づき,地球温暖化によって氷床の底面滑りが生じ大量の氷が海に流出してしまう 可能性があることを指摘した.
柳氏は米製潤滑剤"日本酒"とりわけ新潟(越後)の酒,日本酒の深み,辛口・甘口と日本酒度(比重)との関係, 酒の五味(甘,辛,苦,渋,酸),香り,酒の肴,人間の五み,利き酒のポイントなどについて"なめらか"に解説された.
エピローグでの"喉が渇けば水を飲み 心が乾けば酒を飲む","本当にうまい酒かどうかは 酒を注がれた相手が 黙って二杯目の盃を 差し出すかで分かる"が印象的であった.

いずれの話題も本学会の学術講演では聴くことのできない大変興味深い話であった.とりわけ和泉氏の雪崩に関する精力的な実験には 拍手喝采が沸いた.講師の方々からは,今後トライボロジー学会会員諸氏との情報交換の場を設け交流を深めたいとの要望や, お酒の入ったフォーラムは他学会には見受けられず,画期的なものであるとの賛辞を頂戴した. 今回のイブニングフォーラムの参加者(約130名)には,ユニークな話題に加え,新潟の酒,名産品を堪能してもらい, 大いに満足していただいたものと感じている.
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特別講演会(柳和久実行委員長)

「新潟は米所」という定評があるので,それに相応しく,しかもトライボロジーに関係が深い内容の特別講演が必須であると考えた. 折しも国と県で力を注いでいる「高圧処理技術を利用した新機能性食材の開発」が話題となり,また火付け役の山崎彰氏 (越後製菓椛纒\取締役会長)から講師役のご快諾をいただいたので上記の目標は難なく達成した.

食品の安全確保による消費者の安心と物理的な根拠に裏付けされた旨味の向上技法が数多くの事例をもって紹介された. さらに,それらを実現するための,高圧発生装置におけるトライボロジー技術が大きなネックとなっていることを課題として掲げられた.
それに対して,田中正人会長が学識を交えていくつかのコメントを述べられた.司会担当の立場として聴講者の鋭い眼差しを感じ取った ことを付記させていただく.

特別講演会で講演される山崎氏
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トライボロジーアカデミー(佐伯暢人委員)

トライボロジーのおもしろさや役割をエンジニアの卵である工業高校生に伝える試みとして,「トライボロジーアカデミー」を実施した.
その内容はトライボロジーに関するクイズを新潟市内の工業高校2年生80名に出題し,映像を交えた理解しやすい解答を提供する形式とした. さらに,解答用パネルなどを高校生すべてに準備し,工業高校生の積極的な参加を促した. 1時間半のイベントの間,高校生の非常に活気ある雰囲気が会場にあふれ,手前味噌ながら成功裏の内に本イベントを終了することが できたと思われる.これもすべて,以下に示すクイズ出題者の方々(クイズ出題順)のご協力のおかげである.

(1)(独)産業技術総合研究所 是永 敦氏「トライボスピンバトル」
(2)本田技術研究所 荻原 秀実氏,(株)不二製作所 石渡 正人氏「なんで? どうして回るの?」
(3)光洋精工(株)武田 稔氏,戸田 一寿氏「究極のまんまる」
(4)(株)曙産業 宮本 憲一氏「マジックしゃもじのなぞ解き」
(5)ホンマ科学(株)本間 侃氏「ベクトル差動タイヤの不思議」

クイズ出題者の方々の巧みな話術と趣向を凝らした内容には工業高校生だけでなく,聴講者約60名を加えたすべての視線は壇上に釘付けであった.
特に,クイズ出題者の方々が満面の笑顔でお持ちいただいた装置を動かし,クイズを出題されていたことが非常に印象的であった.

後日,引率された工業高校の教員の方から,生徒の理解と満足度が大変大きなものであったことを記したお礼のメールを頂戴したことを付け加えておく.

トライボロジーアカデミーで出題する是永氏
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利き酒会(柳和久実行委員長)

特別講演会に続く懇親会を同一の場所で催したいという実行委員会のたっての願いに便乗して,その準備時間に越後銘酒の利き酒会を設定した.
同じ蔵(酒造会社)の5種類の清酒を利き中ててもらうことにした.参加者140人のうち全問不正解者が何と49人という悲惨な結果に終わったが, 学会員間の滑りはますます低摩擦係数下に移行したようである.
成績上位者の11名を懇親会で発表し,左党に限定の景品を授与した.
ただし,「人の滑り」を正式なセッションに位置づけるのは時期尚早と判断せざるを得ない.
利き酒会の写真
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ビールラベルコンテスト(新田勇委員)

昨年の「アートラボポスターコンテスト」と同じ企画主旨ながら,少し目先を変えて,市販のビール瓶に貼れるぐらいの大きさのラベルを 作成するコンテストを行った.
新潟は酒どころであるので,アルコールを潤滑剤に見立てたわけである. なぜ日本酒のラベルでないのかという疑問もあるが,以前より研究室でビールラベルコンテストを開催しており, その延長線で企画したというわけである.
会告による呼びかけに対してその応募の出足は悪く,当初は4件の応募しかなかった.急遽電子メールで催促をしたところ, 最終的には25件もの応募となり,かなり立派なコンテストとすることができた.

ビールラベルコンテスト
3つまでの気に入った作品を投票用紙に記入してもらう形で投票を行った.会議参加者の自由投票であるが,最終的には96人の方に投票して頂いた.
第1位東京工業大学 原精一郎氏
第2位産業技術総合研究所 是永敦氏
第3位NOK(株) 中岡真哉氏,水田裕賢氏, 山中拓也氏,吉田敦氏,高澤史枝氏,岡部光宏氏,佐藤裕樹氏
実行委員会特別賞 NOK(株) 吉田敦氏
入賞作品には賞状と賞品(新潟のスワンレイクビール)が贈られた.

応募された作品は「ビーラベルコンテスト参加作品」に掲載されています.
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懇親会(新田勇委員)

懇親会は会議2日目11月12日(水)18:30より朱鷺メッセ4階国際会議室で約240名の参加者があり,盛大に開催された.
司会は新田勇実行委員が勤めた.柳和久実行委員長,田中正人学会長の挨拶に続き,ご来賓の高橋正樹新潟県副知事と板東武彦新潟大学副学長に 祝辞を頂戴した.会議の開催を祝って鏡開きを行い,矢野法生副会長に乾杯のご発声を頂いた後,歓談となった.

懇親会(鏡開きの後の乾杯)
今回の懇親会は,昨年の仙台に続き,着席形式のブッフェスタイルで行われた.料理については,「新潟地産地消メニュー」を用意した. コシヒカリ幻米の「おにぎり」をはじめ「十日町そば」と郷土料理の「のっぺい」などを揃えた.水にもこだわり名水「どっこん水」を用意した. デザートには「おけさ柿」と幻の洋ナシ「ル・レクチェ」,そして新潟の各種冷酒を配置するなど万全の体制で臨んだ.
当初は190名程度の参加者を見込んでいたが,それを上回る方に来ていただき,イナゴの大群に襲われるがごとく料理は早々と完売してしまった. 「恐るべしトライボロジストの食欲」これが今回の一番の反省点となった.

歓談の後は主に表彰の部となった.今回の初の試みでトライボロジーアカデミーを開催したが,問題を出題して頂いた方の紹介と 田中会長による総評が述べられた.続いてベストプレゼンテーション賞の2日目までの受賞者に対する表彰が行われた. その後,ビールラベルコンテストの表彰と利き酒の表彰が行われた.利き酒の表彰で懇親会は最高潮に達した. 最後にトライボロジー会議2004秋鳥取について鳥取大学教授福井茂寿先生から挨拶と紹介があり, 続いて,内山吉隆実行委員の音頭でお開きとなった.
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製品・カタログ展示(太田浩之委員)

トライボロジー会議期間中,「企業技術・製品PRコーナー」と銘打って,製品・カタログ展示を行った.
展示企業数は26社(カタログ展示のみの8社を含む)であった.各ブースを広く(1800mm×1200mm)とった結果,各企業とも豊富に展示物を 並べられていた.
当コーナーの一部を借りて,古代中国で用いられた指南車(歯車を用いた方位計)および記里鼓車(距離計)の復元模型の 特別展示と実演を行った.カメラのシャッターを切られる方,担当者にその原理や歴史を質問される方などが多数いた.
当コーナーの入口では,トライボロジー関係の書籍を定価の15%引きで販売する「書籍コーナー」,地球ごまや人工雪の製造セットなどを 販売する「科学グッズコーナー」を設置した.いずれも,参加者へのサービス企画と考え,利益なしの実費配布とした. その結果,書籍・科学グッズとも予想以上に売れた.木村・岡部両先生の「トライボロジー概論」,堀先生の「流体潤滑」とともに, 大量にあった「地球ごま」が完売となった.教訓として「トライボロジストは地球ごまが好き」が残った.

企業技術・製品PRコーナー
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終わりに

「トライボロジー会議2003秋新潟」の開催業務を終えて様々なことを学び取ったと自負している.産学官からなる実行委員会といえども イベント開催業務には素人集団のため,専門業者のノウハウと機動力にすがることを是とした.会場を大学としなかったための必然性が 大きかったが,今後のトライボロジー会議開催者(実行委員会)の一つの選択肢となろう.特に,新しいイベントを試行する際にはお勧めである.
実行委員会内には反省事項が山積みになっている.また,参加者からも建設的な意見や要望が数多く寄せられている. それらに本実行委員会が対処するには相当の年月を要してしまう.それよりも,ご来賓の方々が異口同音に唱えられた「トライボロジー??」が 意味することを真剣に考える必要があるのではなかろうか.本学会が社会と乖離しないことを祈りつつ.
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実行委員(五十音順,敬称略)

岩井 智昭(金沢大学),岩井 善郎(福井大学),内山 吉隆(金沢大学),大住 剛(北陸職業能力開発大学校), 太田 浩之(長岡技術科学大学),小沢 康美(福井工業大学),金子 覚(長岡技術科学大学),川口 雅弘氏(産業技術総合研究所), 河村 新吾(YKK株式会社),小林 義和(日本大学),佐伯 暢人(新潟工科大学),清水 健一(株式会社不二越), 田浦 裕生(長岡技術科学大学),寺岡 貞一(金沢工業大学),中川 多津夫(金沢工業大学),鳴海 敬倫(新潟大学), 新田  勇(新潟大学),春山 義夫(富山県立大学),堀川 教世(富山県立大学),堀切川 一男(東北大学),本田 知己(福井大学), 松崎 良男(石川工業高等専門学校),松原 亨(マコー株式会社),柳 和久(長岡技術科学大学),山口 建次郎(日本ベアリング株式会社), 山口 健(東北大学),山崎 隆(株式会社長岡歯車製作所),山田 良穂(金沢大学)
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「トライボロジー会議 2003 秋 新潟」