会長メッセージ
一般社団法人日本トライボロジー学会 第70期会長
佐々木 信也
このたび,第70期日本トライボロジー学会会長を拝命いたしました,東京理科大学の佐々木信也です.会員歴40年を迎えるとはいえ,まだまだ若輩の身であり,至らぬ点も多々あろうかと存じます.微力ながら,学会の更なる発展と未来への継承のために尽力してまいりますので,どうか皆様の温かいご理解とご支援を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます.
さて,本学会は本年,1956年の潤滑学会としての設立から数えて,創立70周年という大きな節目を迎えました.この70年の歩みの中で,わが国の産業発展や学術振興の一翼を担ってきた学会として,国内外において確かな存在感と信頼を築いてまいりました.この発展はひとえに,歴代会長,理事,事務局,そして多くの会員の皆様方の不断の努力と情熱の賜物であります.この場をお借りして,長年にわたって本学会を支えてくださったすべての皆様に,心より深く感謝申し上げます.
トライボロジーは,一見きわめて現実的な問題を対象としながらも,その背後には物理学,化学,材料科学などの基礎学問が複雑に関係しており,さらには機械工学,電気・電子工学,情報工学,バイオテクノロジー,医療,土木・建築,宇宙開発など,広範な産業分野と密接に関わる学際的・融合的な領域です.また,本学会の大きな特徴として,企業の研究者・技術者が多く在籍していることが挙げられます.これにより,学術と実務の架け橋としての役割を果たし,理論と応用を行き来しながら社会的な価値創出に貢献してきました.
とりわけ近年では,地球環境問題への対応が人類共通の課題となる中,カーボンニュートラル社会の実現に向けた取組みが加速しています.エネルギー損失の大きな要因の一つである摩擦・摩耗の低減や,再生可能な資源を活用した材料開発,電動化・水素社会に対応した新しいトライボロジー技術の創出など,本分野に寄せられる期待はかつてないほど高まっております.私たちトライボロジストの知恵と技術が,持続可能な未来社会の構築に直接貢献できることは,大きな誇りであり,また責任でもあると感じております.
一方で,学会運営の観点では,会員数の減少,若手研究者・技術者の参画の減少,財政基盤の不安定化など,看過できない課題にも直面しています.これらの課題に正面から向き合い,持続的な学会運営と未来への展望を描くためには,運営の透明性と効率性を高め,より開かれた学会を目指す取組みが不可欠です.
そのような認識のもと,今期の活動では,デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を中心テーマの一つに据え,改革に取り組んでまいります.具体的には,69期において江上前会長のもとで策定されたガバナンス強化策を着実に実行に移すとともに,学会誌『トライボロジスト』の電子化を進め,情報の利便性向上と財政負担の軽減を両立させていきます.また,国際誌『Tribology Online』やSNS等を通じた情報発信力の強化を図ることで,国際的なプレゼンスの向上を目指します.
さらに,学会外の技術者や産業界との接点を増やし,現場のニーズに応じたアウトリーチ活動も積極的に行いたいと考えております.セミナー,講習会,技術相談などを通じて,現場の「困った」に応える学会として,実社会に根ざした活動の幅を広げてまいります.
そして,2050年に向けたビジョンを見据えつつ,本学会が次の10年,20年をどう生き抜き,どのように価値を発揮していくかを会員の皆様とともに考え,創り上げていきたいと思います.そのためにも,産業界,アカデミア,さらには国内外の関連学会との連携と対話を重ね,柔軟かつ持続可能な新たな制度や仕組みづくりを進めていく所存です.
どうか今後とも,会員の皆様の積極的なご参画と,温かいご支援を賜りますよう,心よりお願い申し上げます.
